福岡の木村専太郎クリニック院長、木村専太郎の執筆した文献などをご紹介

アメリカで武者修行をしたサムライ外科医が市井を生きる“赤ひげ”に

帰国後は院長として活躍。2つの病院を立て直す

そんな木村氏を日本へ呼び戻したのは、日田中央病院からのSOS。

「3度目の渡米前にアルバイト先としてたいへんお世話になった病院です。そこの院長が、『この病院は木村君に頼む』と遺言されたという。院長が亡くなったのは、アメリカで開業してまもなくでしたから、そう言われても帰るつもりはありませんでした。でも2年半後に再度、『病院が潰れかけている、院長になってくれ』と頼まれたら、引き受けるしかないですよね(笑)」

院長と言ってもその席をあたためている暇もなく、むしろチームリーダーとしてスタッフたちを引っ張って忙しく立ち働く日日。病院は大分県日田市にあったので、福岡の自宅に帰れるのは週にせいぜい2日、最高で月に20日間も病院に泊まり込んで患者を診た。そんな院長の姿を見て、スタッフたちが奮起しないわけがない。

「どうせ自分は勤務医だからという甘えを捨てて、皆がここは自分の病院だという意識で、理想の医療をめざしてやっていけば、それは必ず患者さんに伝わりますよ。いい医療をつづけていれば、あのころなら必ず病院の経営は立て直せたんです」

院長就任の5年後、すっかり活気を取り戻し経営も順調になった日田中央病院をあとにして、求められ次は福岡市の那珂川病院へ。ベッド数160床と、日田の2倍規模の病院だったが、ここでも院長自ら率先し「いい医療」の姿勢をスタッフに見せ、数年後には収入を2倍以上に伸ばした。

「那珂川病院では看護師不足時代で、看護師教育にも力を入れました。自分で看護学校に教えにも行ったし、看護師さんたちにもどんどん勉強しなさいと勧めて。看護師学生12名、准看護師学生12名が同時期に通学しているようなときもありましたね」スタッフ教育に熱心な病院という評価を得て、現在の那珂川病院は、看護学校の研修指定病院にもなっている。

24×7(twenty four seven)のよろず相談所を標榜

アメリカでも日本でも働きづめだった木村氏だが、還暦をすぎ、そろそろリタイアして好きなテニス三昧でもと考え始めたとき、かつての夢が脳裏に蘇った。そう、赤ひげ先生である。

「今までの経験すべてを使い、あたためていた夢に挑戦してみようと思いました」

外科全般はもちろん救命救急でも整形でも耳鼻咽喉科、産婦人科、小児科でも経験を積み、頭部から呼吸器、循環器、消化器と体中を診ることができ、さらにはスポーツドクターとしてリハビリ医療にも関心が高く、また形成外科的手術の経験も豊富。そんなめったにない知識と技術と経験を持つ木村氏だからこそ若き日の夢が夢で終わることはなかった。2001年、福岡市南区でクリニックを開業。掲げたモットーは「病やまいと健康のよろず相談所」と、もうひとつ「24×7」、つまり1日24時間で週7日間、年中無休の意味である。「いつでもなんでも診ます」と宣言したに等しい。

「患者さんには携帯電話の番号を教えてあって、電源は常にオンにしてあります。ちょっとした不安の場合は、話を聞いてあげるだけで落ち着く場合があるし、もし救急のときには、那珂川病院をはじめすぐに紹介できる大病院がいろいろあります。今では九大の同期や外科の後輩、剣道部の後輩たちも大勢、大学や市内の大病院でいいポストに就いていますからね」

もちろん、昼間はクリニックで自ら手術も行う。特に木村式ほくろ(ホクロ)除去手術、下肢静脈瘤の注射硬化療法、木村式巻き爪手術は、症例数も豊富で定評がある。ほかに高齢者のグループホームへの回診もし、診療時間が終わってからは毎日Eメールで送られてくる患者の相談に1通ずつ丁寧な返事を出す。そんな多忙な日々でも、木村氏の表情から笑みが消えることはない。

「赤ひげもだけれど、僕はパッチ・アダムスも尊敬していてね。映画でロビン・ウィリアムズが演じて有名になりましたが、こちらは実在するドクターですから、2004年熊本に講演に来られたときには飛んで会いに行きましたよ(笑)」

パッチ・アダムスと寡黙で無骨な赤ひげの精神に、明るく楽しいパッチ・アダムスの笑顔をまとって、木村氏は今、人々に愛され頼りにされる確かな存在として市井に生きている。

(株)メディカル・プリンシプル社発行
(ドクターズマガジン2006年2月号 掲載)
取材:及川佐知枝/文:中村裕子/撮影:田口昭充

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