「糖質は人類を滅ぼす」や「食事に糖質は要らない」といった題の本が最近出版されている。体のカロリー源になる三大栄養素の糖質、たん白質と脂質のうち、たん白質の分解物質アミノ酸と脂質には「必須アミノ酸」や「必須脂肪酸」が存在するが、糖質には「必須」が付いた物質はない。たん白質と脂質から糖質も作り出されるから、糖質は要らないという極論も成り立つ。
糖質制限法には、三段階の方法がある。1日三食のうち、一食だけ主食の米と糖分を含んだ品物を食べない「プチ糖質制限法」、次に二食(スタンダード糖質制限食)から三食(スーパー糖質制限食)と糖質を段階的に制限する方法がある。先ず、三食の内一食から糖質を完全に除く「プチ糖質制限法」が始め易い。朝食が抜き易いが、朝を食べない人は昼か夜食の糖質制限をする「スタンダード糖質制限食」が良い。米や麺類やパンに対する拘りの無い人は、すんなり三食糖質制限食は出来る。一食の糖質制限から入って、次第に増やすとよいと思う。次の二食ダイエットは、外食の方は昼食の糖質制限は難しいので、朝夕されるとよい。目指すは、朝昼晩の三食行うスーパー糖質制限食をことである。患者は体重が減少し、HbA1Cも改善すると身体の調子もよくなり、糖質制限が楽しくなる。勿論食間に食べるスナックや飲み物も糖質制限が原則である。日本人の中で、どうしても糖質中毒症の方がおられて、糖質制限が出来ない人が沢山おられるようである。お菓子、米飯、うどんやラーメンは、主食や食事の一部ではなく、好き嫌いの世界であり、麻薬、たばこやアルコール中毒の世界と同じと思うと理解し易い。そのような方には、一応糖質制限食をお勧めするが、個人の自由であるから、無理にはそれ以上勧めてはいない。しかし、元気で長生きしたい方は、まず一食から糖質制限を開始されることをお勧めする。
最近の糖尿病協会のお勧めの典型的な日本食の60%が炭水化物、20%がたん白質と脂肪であるという。糖質制限に慣れている筆者には、中々糖尿病が治らなくて肥満が多いのは、糖質が多いためかなと思っているがどうであろうか?
たん白質を食べて消化すると、アミノ酸に分解され必要に応じて糖分ができる。これを糖新生という。ライオンなどの肉食動物が糖分を摂取しなくても血糖値が維持されているのは、この糖新生のためである。たん白質がアミノ酸になるとそれぞれのアミノ酸に、肝臓内のそれぞれのトランスアミナーゼが作用してグルタミン酸が出来て、アミノ酸プールに入る。例えばGOT(AST)はアスパラギン酸に、GPT(ALT)はアラニンに作用すると、グルタミン酸とオキザロ酢酸やピルビン酸が出来てTCAサイクル内に入る。これが学生時代の生化学でならった糖新生である。この作用にはビタミンB6が必要である。生化学検査でGOTやGPTの値が15IU/ℓより低いときはビタミンB群の欠乏症があるために、糖新生がうまくいかない場合があるために、プチ糖質制限から始めたほうがよい。たん白質の補給とB群を十分に投与して、糖質制限をすると、慢性疲労症候群様の症状が次第に改善する。
糖質制限に留意しないで、糖質十分な食事をすると血糖が上昇する。食後に運動をすると、インスリンの作用なしに血糖は利用されて下がる。しかし、運動をしないと、血糖は上昇し膵臓から大量にインスリンが分泌されて、糖が利用されないで、中性脂肪に変化して蓄えられる。またインスリンが多量に分泌されるために、時間の経過とともに、反応性に血糖が70mg/dl以下の低血糖になる。これを「機能性または反応性低血糖症」という。体は低血糖状態が危険であることを本能的に知っており、昔から飢餓による低血糖症を防ぐために、生体には多くの血糖上昇ホルモン、例えば膵臓からグルカゴン、副腎髄質からアドレナリン、副腎皮質からコーチゾンが存在し分泌する。1日に何度も血糖上昇が起こり、低血糖発作が起こるたびに、膵臓や副腎が反応して疲弊してくる。アドレナリンの原料であるチロシンは、甲状腺ホルモンのチロキシンを作る原料でもあるために、甲状腺機能低下症をも併発する可能性を有する。最近問題になっている「副腎疲労」や「慢性疲労症候群」は、この機能性低血糖症が関係しているから、糖質制限を実行して高血糖のスパイクを少なくすることが、大切である。慢性疲労症候群の中に、甲状腺機能低下症も良く存在する。通常の血液検査で10人に1人に甲状腺機能低下症が存在する。是非、生化学血液検査の中に、甲状腺機能検査のTSHとT4の項目を加えて戴きたいと思う。
米国では、凶悪犯罪と機能性低血糖症に密接な関係があることが、すでに解明されている。最近話題になっている日本の凶悪犯罪も、機能性低血糖症やたん白質、ビタミンやミネラルが少ないインスタント食品や野菜不足などの「カロリー十分」の新型栄養障害に起因しているのかも知れない。
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