わたしが大切にしているもの

ハーモニカ

二年前、たまたま見たNHKの音楽教育番組で、数十年ぶりに火がついた。

もともと音楽が大好きで、中学の時に友人が吹くハーモニカ演奏に魅せられ、自分のおこずかいで買ったのが最初。当時はメロディーと演奏を一人で同時伴奏するのに憧れ、そこそこ唇が切れて出血するほど熱心に練習したのを思い出す。
忙しいの一言で片付けたくないが、医療という自分の道を見つけてからは時間がどれだけあっても足りず、自然と離れてしまった。

きっとこころのどこかで再開するきっかけを待ち望んでいたのだと思う。再びついた火はあっという間に燃え上がり、すぐ生活の一部に。家に一つ、医院に一つ、そして車に一つ、まったく同じハーモニカを置いている。
演奏自体が楽しいから音が出れば文句はない。その他にも運動、特にテニスには熱心だ。
ただ医者の不養生というわけにはいかず、運動するのもどこか打算的なところがないわけでもない。そういう意味では僕にとってハーモニカは純粋に気晴らしができるもの。渋滞中に閉め切った車のなかで吹くこともある。懐メロから最近の曲まで、レパートリーは五十曲くらい。ただ基本的に人に聴かせるためのハーモニカではなく、あくまで個人的な楽しみ。練習して曲が吹けるようになる達成感が、僕には大切な要素でそれがストレスには決してならない。

この前、外出先から帰ってきた妻が「今日デパートで良い曲を聴いた。○○って曲名だったけど、知ってる？」って。それが毎朝、僕が練習で吹いている曲だった時は少しショックだったけど。

(月刊はかた10月号掲載)